Paddock Paradise

パドック・パラダイスとは

 

元装蹄師であるJaime Jackson氏が考え出した馬の育て方や育てる環境。

 

野生馬の生息地Great Basinに何度も足を運び、野生馬の生態を研究する中で「なぜ人間に飼われた馬には怪我や病気が多いのに、野生馬は健康で丈夫なのか」という疑問が湧いてきたそうだ。

 

そして、その答えは野生馬の生活環境、餌、生活スタイルにあったそうだ。

 

Jackson氏自身は、カリフォルニア州ロンポックの山に実験的に「パドック・パラダイス:馬の自然放牧モデル」を作り、そこで馬を育てるうちに、その考えが正しいことが証明された。

 

跛行や蹄葉炎を起こした馬をパドック・パラダイスで育てるうちに、その馬の蹄の状態が良くなるということがたびたび見られたのだ。



パドック・パラダイスでは、低糖質の餌(干し草)、広い場所をよく歩くこと、24時間の昼夜放牧を行っている。

そのほか、飼い主によってはミネラルやフラックスシードのようなサプリメントを餌に加えるところもある。


さらに、休憩場所、水飲み場、砂遊び場、風雨を避けるためのシェルターを設けている。基本的には、馬が自分で選択して行動できるようにしている。

理想的なのは、適度な坂道のある散歩道。馬たちは毎日坂道をかけ登ることによって心肺機能が鍛えられる。

 

また、蹄のケアは蹄鉄なしのナチュラル・フーフ・ケア。

野生馬が自然の中を歩き回って削れて形成される蹄の形を模倣して、訓練を受けた削蹄師がケアを行っている。

 

(書籍:Paddock Paradise: A Guide to Natural Horse Boarding

 

上:裂蹄。下:パドック・パラダイスで過ごした数年後。裂蹄もなくなり角度も理想的な角度になっている。
上:裂蹄。下:パドック・パラダイスで過ごした数年後。裂蹄もなくなり角度も理想的な角度になっている。

野生馬の生息地では、青草のない環境が一般的


青草(特に春の青草)には糖質(フルクタン)が多く含まれるため、あまり運動しない馬にとっては蹄葉炎のリスクになる。
それを防ぐため、牧草地にはフェンスを設けて、なるべく青草を食べられないよう工夫をしている。

水飲み場を求めて一日中歩く


野生馬は、枯れ草を食べたり岩塩を舐めたあと、喉が乾いたら水飲み場(池や小川)まで歩いて降りてくる。
他の群れと遭遇することもあるが、お行儀よく並び、水を飲む。
夏の暑い時期は、水の中に入って水浴び。
水から上がれば、砂場でゴロンと泥パック。
細かい砂の粒子を身に纏うのは、虫除け対策になっているのかもしれない。

 

野生馬にとって、水飲み場は他の群れの馬との交流の場になっている。若いオスは若いメスとの出会いの機会でもある。

 

お昼寝


キャンプ場所では、お昼寝や毛づくろいが行われる。
馬は、敵の動きを察知するため、見晴らしの良い場所を選んでお昼寝する。
お昼寝中、最低1頭は起きていて見張り番をしている。

日差しが強いときのためにテントの屋根を設置してもいい。
ここでは食餌厳禁。

嵐のときの避難所


普段は使うことはないけれど、嵐のときに駆け込める避難所(シェルター)を設けておく。テントのような簡易なものから壁のある小屋までいろいろある。

餌(干し草)用ネット


雨に濡れても汚れないようにネットに入れて吊るす。
網目を細かいものにすることによって、馬が一気に食べず、口で引き抜く力を使いながら食べることになる。
少し食べては移動するのが野生馬の自然なスタイル。一度に大量に食べることはない。

 

また、餌場ではキャンプをさせない。あくまで食べる場所とする。


餌場は、散歩道の途中に複数箇所設ける。できれば等間隔に。
移動が飽きないような工夫をする。

(画像はクリックで拡大)

どんな放牧地にすればいいか


パドック・パラダイスの放牧地は、外周フェンスと平行して内周フェンスを設けている。
このフェンスとフェンスの間が馬の生活圏になる。

なので、窮屈にならないように道中に池を作ったり、昼寝の場所や、遊び場、餌(干し草)を食べる場所、丘、木の茂み、テントを設けておく。
アスレチックのような遊び心を持って馬が前に進めるような環境を作ってあげる。

散歩道の大切さ


パドック・パラダイスとは、生活のほとんどを散歩道(トラックとよばれている)を移動しながら生活することを意味する。
歩く途中には、キャンプ地(お昼寝や毛づくろいの場所)、水たまり場、砂場、餌場などがあり、前に進むことのモチベーションを保っている。

散歩道を作ってあげることによって、馬たちは毎日長い道のりを歩くようになり、野生馬の生態に近づけるようになる。

野生馬は、1日に30kmも移動し、干し草を食べたり水浴びしながら過ごしている。


馬たちの遊び心、好奇心、食欲をかきたてるような、前に進みたくなるようなデザインが必要になる。
また、道幅は20mくらいが「立ち止まらず自然に移動し続ける」幅だといわれている。

リラックスできるような広いスペースを


パドック・パラダイスでは広い草地を設けていて、1日のうち45分(5%)まで馬が自由に走り回ったりじゃれ合うためのスペースを設けている。


馬たちは、広い草地にやってくると元気よく走り回る。身体を思いっきり動かすことによって筋力トレーニングになっている。
ここでは牧草地とはいえ、食べるのが目的ではなく運動が目的。

砂の上でゴロン


一日の生活の中で大切な時間のひとつに砂浴びがある。

そのため、砂場を設けてあげる。

ゴロンと寝転がることは、マッサージやストレッチにもなる。


また、砂の細かい粒子を体全体に纏うことによって、蚊に刺されにくくなるとも言われている。

95:5の法則


馬の行動を日常と非日常に分けたとき、1日の時間のうち95%が日常の行動に使われ、5%が非日常の行動に使われていることがわかった。

例えば、草を食べること、歩くこと、眠ること、水を飲むことなどは日常の行為に当てはまる。

全速力疾走で敵から逃げること、繁殖、出産、ファイティング(オス同士の本気または遊びの闘い)、広い草むらで走り回ることなどは非日常の行動になる。また、乗馬も5%(非日常)に入る。

樹皮、木の枝、ハーブ


馬は、干し草だけでなく樹皮、木の枝、ハーブなどを食べる。パドック・パラダイスでは、道端に木やハーブ(ネトル、カモミールなど)を植えている。

また、干し草も1種類ではなくいろんな種類の草を与えたい。

Stud Pile(ボスの糞の山)


Stud Pileを訳すと「ボスの積みあげたもの」。群れが自分たちのテリトリーに入るときに、ボスは入り口で糞を積む。いわゆる縄張りづけのようなもの。他の群れがやって来たときに「ここは俺のテリトリーだからな」という意思表示なのかもしれない。

野生馬の移動距離

野生馬は1日に30kmも歩く。
水飲み場をスタートして、自分たちの馴染みのある山の中を歩いていく。坂を登っては高台の草地で休憩。山の尾根を歩いたり、火山岩や溶岩ドームの跡地なども器用に歩く。クーガーの生息地では、できるだけ物音を立てないように素早く通過する。
そうやって、またスタート地点の水飲み場に戻ってくる。
何日もかけてトレッキングしているのかもしれない。

群れを作って歩く馬たち


野生の馬は群れを作って行動する。
それと同じでパドック・パラダイスの馬たちも群れを作る。
野生馬も、細い道を一列になって歩き、基本的には群れのボスが最後尾を歩くそうだ。

 

ミネラル補給のための岩塩


野生馬はミネラル補給のため溶岩ドームや岩塩のある岩場を訪れ、そこでミネラル岩塩を舐めたり齧ったりする。
それを模倣して、パドック・パラダイスでも岩塩を舐められるような工夫をしている。
紐で吊るすことによって、ミネラル岩塩の汚れやロスを減らすことができる。

カルサイト


カルシウム豊富な石を適当な大きさに砕いて地中に埋めておく。
すると、馬は前脚で石を掘り起こして、齧りながら歯を磨ぐ。
乗用馬は定期的に歯医者に歯を削ってもらうけれど、かみ合わせの部分を削ることには弊害もあるといわれている(サイドの尖った部分を磨ぐことは必要かもしれない)。

ゴツゴツした岩の上も歩く


野生馬の蹄は石のように固くなっていて、火山岩のようなゴツゴツしたり尖った岩の上も器用に歩く。
砥石やヤスリのような岩の上を歩くことによって、自然に蹄を研いでいるのではないだろうか。

老後の世代交代


歳を取ると、ボスは若くて強いオスにボスの座を明け渡すことがある。
自分は群れから独立して、別の生き方をする。年老いたメスを引き連れて群れから離れることもある。

サプリメント


オメガ3、ミネラルなど足りないものは干草とは別に与える。

電子フェンス


パドック・パラダイスは牧草地の周りに電子フェンスを用いている。
電子フェンスは、配置を自由に変えることができる。
また、電子フェンスを用いることによって馬が内側の牧草地に入って草を食べないようにもなる。